安倍外交に見る「失敗の法則」〈前編〉 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

安倍外交に見る「失敗の法則」〈前編〉

なぜ安倍外交はうまくいかないのか

■低姿勢とは外交の否定だ

 ただし低姿勢外交、ないし八方美人的な事なかれ主義のもとでは、自国の戦略や権益を積極的に打ち出すことはできません。

 けれども外交とは、衝突や紛争にいたることなく、自国の戦略を実現させ、権益を満たすための手段だったはず。低姿勢外交とは、本来の意味における外交の否定であり、「軟弱な外交もどき」としか評しえない代物なのです。

 戦後日本型の平和主義が抱える問題については、拙著『平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路』で詳しく論じましたので、ぜひそちらをご覧下さい。ここで問題にしたいのは、わが国の外交が今なお、低姿勢の呪縛を脱していないことです。

 というのも1990年代はじめあたりから、外交における軟弱な事なかれ主義を正当化する格好の口実が出回ったのです。すなわちグローバリズム。今や世界は一つになりつつあるのだから、国境や国籍にこだわる時代は終わった、というアレです。
 これが正しければ、国家戦略や自国の権益を積極的に打ち出す時代も終わったはず。「日本式の外交こそ、新たなグローバル・スタンダードになる!」と、胸を張りたくなるところでしょう。

 しかし現実には、そうはなりませんでした。「国家」を否定するグローバリズムが広まったせいで、国家間の対立がむしろ先鋭化する傾向を見せつつあるのが、2010年代の世界の現実です。

 グローバリズムが謳われる時代だからこそ、自国の戦略や権益を積極的に打ち出した外交が必要なのです。にもかかわらず、「国境や国籍にこだわる時代は終わった」とばかり、低姿勢外交を続けたらどうなるか?

 そうです。

 必然的に国益を損なうことになるのです。過去数ヶ月の安倍外交は、このような「失敗の法則」を浮き彫りにするものでした。

 
次のページ安倍総理はタンカを切ったが・・・

KEYWORDS:

オススメ記事

佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路
平和主義は貧困への道 または対米従属の爽快な末路
  • 佐藤 健志
  • 2018.09.15